安易に「天才」という言葉を使うなというのであれば、「魔術師」とでも形容するほかないのがJacob Collierである。
2020年にリリースした3枚目のアルバムDjesse Vol.3から、3番目のシングルとして先行発表された楽曲。
あらゆる音楽が世の中にあふれている現代にあって、新しい表現を追求するのは並大抵のことではない。が、英国出身の若者は実に楽しそうにそれをやってのけるのである。
クラシック・エレクトロ・ブラックミュージックなどジャンルの垣根を超えた表現を試みるアーティストは少なからずいる。
が、ここに強烈なオリジナリティを加えるのがCollierの操るポリフォニー(多声音楽)である。とにかく難解で敬遠されがちな技法をまったく嫌味なく大衆音楽に落とし込むのが、彼の最大の特色であるといってよい。
さらに、無限に繰り返されるようにすら思える転調の連続。まるで高速回転する万華鏡が目の前に広がるような印象を与えるのだ。
<Hi>という気軽な歌詞で始まるこの曲、人間性を祝福し、人々の精神を高揚するという壮大な願いが込められているようだ。
<考えずにはいられない 君が僕の必要とする全てなんだ>
この「君」は特定の誰かを指すものではなく、また必ずしも近くにいる人のことでもない――世界中のあらゆる人間のことを歌っているというようなことを、本人がほのめかしている。
フィーチャーされるMahaliaは英国のソウル・シンガー・ソングライター。2015年に歌手としてデビューしており、2018年から2019年にかけて複数の賞にノミネートされるなど、にわかに注目を集める存在。
そしてTy Dolla $ignは米国のシンガー・ソングライター。ラップのイメージが強いがR&B全般をフィールドとしており、この曲でもどちらかというとシンガーとしての役割を担っているようである。
なお、Jacob Collierという人物の最も恐ろしいのは、彼が曲中の全ての楽器を自分で演奏している点であることを申し添えておく。
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