カナダのシンガー・ソングライターJessie Reyezは、失恋・セクハラ・移民問題――自身の経験を生々しいまでに曲作りに反映させるタイプのミュージシャンである。
2016年から北米で頭角を表し始め、そのエネルギーをすべて開放するかのようなライブパフォーマンスも、悩める人々のみならず音楽ファンを夢中にする。
現在までに名だたるミュージシャンたちと共同制作を行っているのだが、意外にもアルバムデビューしたのが2020年3月のことだった。
記念すべき作品のタイトル曲が、このBefore Love Came to Kill Usである。愛が殺しにくる――ありそうで無かった言葉選びに、少々たじろいでしまう。
若さゆえに終わった愛、それも暴力的なまでのダメージを与えて終わったしまったことが想像されるが…
それでも忘れられないようだ。
<少なくともあの間だけあなたは私のもので それはとても素敵なことだった>
<あの6月のウエスト・エンドみたいに あなたを抱きしめたい>
舞台が妙に具体的なのが、また感情移入を促すのだろうか。
サビでは<親友だったころに戻りたい 愛が私たちを殺しに来る前に そして月の光の下で 過去に踊りたい>歌われている。
非常に美しく切ない曲。にもかかわらず、少々ダークな雰囲気もまとっているのが不思議である。
なんとも言えないハスキーボイスと、夜も更けたバーに現れるバンドが出すような怪しいサウンドがなせる業か。
そしてそれは、<あなたが恋しいときは薬を飲むの(=酒を飲み干す) 涙が反逆者のようにあふれ出るわ>という歌詞ともリンクする。
レトロなポップスを基調としながら、R&Bやブルースの要素もところどころ垣間見える。曲の終わり方はオルガンのようなサウンドになっていて、何かしら祈りのようなものも感じられるのだ。
とにかく個性的な声、あらゆる黒っぽい音楽を併呑したポップミュージック作りはどこかBillie Eilishを思わせるところがあるのだが、実際彼女もReyezの才能を絶賛している。
のみならず、彼女のワールドツアーWhere Do We Go?のオープニング・アクトにも起用されていたようで(新型コロナウイルスにより延期)、この共演はぜひとも見てみたい。
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