Mark Ronson(マーク・ロンソン)については今さら何も書く必要はないだろう。
2019年6月に発表された5枚目のアルバム『Late Night Feelings』からの1曲。MVが同年10月に公開された。
前作『Uptown Special』(2015)がゴキゲンなパーティチューンを中心に構成されていたのに対し、このアルバムは一転、よりエモーショナルな雰囲気をまとっている。
身体で聴くというより、精神に語りかけてくる悲しみのようなものが通底しているのである。
アルバムの制作にあたりロンソンがラブコールを送ったYEBBA(イエバ)は、アメリカ合衆国アーカンソー州出身のシンガー・ソングライター。本楽曲を含む3曲で共働している。
この曲は一度聴いたときから頭を離れないのだが、秘密は恐らくコードの動きだろう。
サビは4小節間のコードの繰り返しで、これが頭で鳴っている限り曲が終わることがないのだ。4つともメジャーコードなのに、何となくマイナー的な寂しさがある。
そして4つ目の和音。この曲のキーはA♭だが、4つ目の和音はA♭の音世界には通常現れないはずのB♭である。
この響きを聴くと「あ、マーク・ロンソン」と思う。小室哲也の曲が容易に判別できるのと似ている。
ふっと風景が変わると同時に結末が見えなくなるような動きで、A♭を求めてサビの頭に返りたくなるわけだ。
トラックは平坦で大げさに盛り上がるわけではない。ただYEBBAの力強い歌声とハイノートのコーラスのみによって高みに導かれていく。
そしてラストのサビだけ一部のコードが少し姿を変える。「テンションコード」と呼ばれ和音が輝くような響きを作り出し、それに呼応するようにMVの夜が明ける。
先日、YouTube上にロンソンのドキュメンタリー番組がアップされたのを見ていると、この曲のレコーディング風景も収録されていた。
近頃の彼は歌手と共作するとき、特段のアイディアもなくスタジオに入り、相手の個人的な話―その歌手が「今」伝えなければならないテーマを聞く。
そしてロンソンがおもむろにギターやピアノでコードを弾くやいなや、歌手から詩が生み出されるのだという。
この曲の歌詞もそうやってYEBBAが書いたもの。
MVでのYEBBA、まるで目に涙を浮かべたようなメイクアップが独創的。明け方にかけて光を反射し、輝きを増していく様が美しい。
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