Ritt Momneyというプロジェクト名はもともと、米ソルトレークシティの高校に通っていたとき彼がフロントマンを務めていたバンドの名前だったそうだ。
これはユタ州(ソルトレークシティのある州)からアメリカ上院議員になった現職の政治家、Mitt Romneyの頭音転換。
卒業後、仲間たちはモルモン教の宣教師として世界各地に飛び立ってしまったためにソロ・プロジェクトに転換したという、なんともソルトレークシティっぽい逸話付きである。
本人はテキサス生まれで、幼少期に同地に移った。とくに信仰心をもっていなかったにせよ、モルモン教徒のコミュニティにどっぷり浸かって育った経験は自身の表現方法に大きな影響を与えたと語る。
本楽曲は、イギリスのシンガー・ソングライターCorinne Bailey Raeが2006年に発表した楽曲のカバーである。
彼女のオリジナル版は英国で商業的に成功したが、2020年のRitt Momney版がリリース当初に日の目を見ることはなかった。
ところがTikTokで注目を集めるに至り、英語圏を中心に徐々に売り上げを伸ばした。極めて現代的なハナシである。
オリジナルが非常にさわやかで健康的なHip-Hopなのに対し、カバー版はどこかグロテスクな美しさを秘めている。
ぼかしと色覚効果を多用したMVは、不気味なのに虜になる夢のよう。
<ねぇ あなたのレコードをかけて お気に入りの曲を教えてよ>
小鳥がさえずる夏の朝に「気張らずいこうよ」と語りかけるような歌詞も、Ritt Momneyというフィルターを通すと別の意味をもつのか。
どこかぎこちないパーカッションのリズムに揺れるテンポは「歪み」までも表現しているように思える。
それはまさに、アナログ・レコードが避けては通れない運命だろう。
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