ついに、白人と黒人のアメリカンミュージックが出会う時代が来たのか。
Khruangbin(クルアンビン)を強いて一言で表すなら、「無国籍インスト・バンド」とでも呼べるだろうか。
典型的なスリーピースではあるが、メンバーを見ると「おっ」と思ってしまう。
白人男性ギタリスト、白人女性ベーシスト、黒人男性ドラムス。性別や肌の色で説明するなんてのは時代遅れだが、一風変わった組み合わせであることは間違いない。
誕生したのはテキサス州ヒューストンで、根底にあるのはクラシック・ソウルやダブ。ヒッピーな見た目からも分かる通り、サイケな音を鳴らすこともある。
しかし、サウンド作りの着想はぶっ飛んでいる。デビューアルバムは「タイの音楽の歴史」を、続くアルバムはスペインと中東を描いた作品。
そもそもヒューストンというのは、全米で最も人種的な多様化が進んだ都市であるらしい。彼らを「無国籍」と形容したくなる所以なのだ。
そんな彼らが、シングルとしては恐らく初めて歌手を迎えた楽曲がTexas Sun。
白羽の矢が立ったのは同じくテキサス出身のLeon Bridges、となれば泥臭いソウルをやるのかと思いきや…
なんとこれが、思いっきりテキサスの「ロード」を描くカントリーミュージック調の楽曲だったのだ。
現代アメリカにおける若手ソウル・シンガーの代表格になりつつあるBridgesに、カントリーを歌わせるというこのうえない試み。彼の声の上澄みの部分だけを掬い取ったような新境地である。
インスト・バンド名義だけあって、楽器も伴奏に回っていない。ベースのグルーブの上で、歌にまとわりつくようなギターフレーズが印象的。
MVもウエスタン、かつロマンティックである。
君を追って走って来たけれど、見渡す限りの荒野の真ん中でエンストした愛車。できることは、沈みゆく夕日に向かって「ああ、テキサスの太陽よ…」と嘆くだけ。
自分がその状況に置かれたいとは思わないが、憧れるシチュエーションではある。
「ブルー・アイド・ソウル」があるのだから、黒人もカントリーミュージックを歌えばいいのにと思うのだが、誰もやらない。多分、商業的に流行らないのだろうけど…
ヨーロッパの移民とアフリカの奴隷がもたらした音楽、それぞれがアメリカ合衆国で育ち、やがてロックンロールという宝物を生み出すに至るわけである。
そもそも白人と黒人の音楽を完全に分離するほうが不自然なはず。この曲を聴くにつけ、やっぱりそう思う。
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